» 2006 » 8月のブログ記事

 

いよいよ最終章!直接対決である。

3、出会い頭戦

 前章と同じく、最初にゴキブリの生態について触れておこう。ゴキブリは触覚や尾角によって空気の流れを感知する。聴覚に該当するものであるが、振動なども感知するので少し違う。また、ゴキブリは感覚の80%程度を触覚に頼っている。つまり触覚を使わないと認知ということができない。よって、触覚を使っていない状況では思考というものができていないのである。

 我々がゴキブリに出会うと、ゴキブリは動きを止める。これは森林の生物の特徴なのだが、森林の生物は基本的に動かなければ周囲の背景に溶け込み、敵に発見されることがない。だから彼らは外敵を発見すると動きを止める。攻撃されていない限り、まだ発見されていないと思い込んでいるのだ。蛇に睨まれたカエルが動かないのもこういう原理なわけである。

 次にゴキブリがとる行動はダッシュである。我々のモーションを感じるか、あるいは攻撃を受けた時からかは固体による。この時、ゴキブリは完全にパニックに陥っている。パニックに陥ったゴキブリは本能でしか動けない。前章で説明した通り、身体を物にくっつけようとする。明るい場所ではなくて暗い場所へと移動しようとする。これらは思考ではなく完全に本能である。その証拠に、我々が道路のど真ん中でゴキブリに会う時、彼らは我々へとダッシュしてくる。外敵である我々に向かってだ。更に靴を少し浮かせてやるとその中にもぐりこんで来る。もしも思考が出来ているならば外敵にわざわざ身を預けたりはしない。ゴキブリがダッシュする時、それはパニックに陥って本能のまま手足を動かしている瞬間なのだ。

 同時に、ゴキブリは走れば走るほどパニックが加速する。なぜならダッシュしている瞬間、触覚は使えないからだ。ダッシュしているゴキブリがひっくり返りまくったりして意味不明な行動をとるのはこのせいである。

 反対にゴキブリがゆっくり歩いている時、ゴキブリは思考が出来ている。(といっても限りなく刹那的短絡的思考)触角を振り回して周囲の状況を認知し、行動に反映させる。逆に考えると触覚を振り回していないゴキブリはもう思考を停止させていると考えてよろしい。つまり、出会い頭のあの瞬間である。この状況は、ほぼ8割がたこちらが勝てる状況である。
しかし触覚を動かしている状況では歩いてのそのそと物陰に逃げられる可能性が高い。

 このようなゴキブリの性質がわかれば、出会い頭の戦闘も楽勝である。基本はとにかくゴキブリをパニックにさせる→パニックを加速させる→誘導→死、である。パニックに陥ったゴキブリは物伝いに移動、明より暗に必ず移動しようとする。この性質を利用してあらかじめゴキブリルートを読んでおくのだ。そこに先手を打てば誘導は簡単である。

使用武器により誘導の手段は少しづつ変わる。では続いて武器についての解説をしよう。

A直接打撃系
B噴射系
C洗剤

尚、すべての兵器に共通することだが、初弾は必ず当てること。当てなければ目標をパニックに陥れることが出来ず、目標をロストしてしまうのは必須である。

A直接打撃系

 もしこれが使える状況であるならばこれが一番良い。押しも押されもせぬ最強の兵器である。スリッパ、ハエタタキなどいろいろあるが私は新聞紙をオススメしたい。新聞紙は長いリーチと状況に合わせた変形、しなりを利用した素早い初速、さらには自身を誘導媒体に使えるというこれでもかというくらいコンテンツ盛りだくさんのマルチ兵器である。

 ゴキブリが壁にくっついている場合は落ちることも計算にいれてなるべく上からスイングすること。また、隙間などがそばにない場合は新聞紙自体を筒にしてゴキブリのそばに置く。パニックになったゴキブリは簡単に新聞紙の中に入ってくるのでそのまま潰して殺す。

 ゴキブリの内臓がくっついてしまっては困る場合や壊れ物のそば、流しなど使用できない状況でない限りは直接打撃系が最も効果的である。相手はたいてい一撃で死ぬ。皆さんには是非直接打撃系で戦っていただきたい。ちなみに私は熱帯魚屋で叩き殺したゴキブリの内臓の残骸を複数のゴキブリが舐め取っているのを見てからトラウマになり、直接打撃系はなるべく使用しないようにしている。ま、飛び散った内臓を拭けばいいんですがね。

B噴射系

 市販の殺虫剤の場合ゴキジェット以外は糞である。他のははっきり言って使えない。ゴキジェットは神経系に作用し、すさまじい殺傷力を誇る。3秒当てることが出来れば確実に仕留めるところまで持っていける。ちなみにゴキブリも他の昆虫と同じく、背中側は耐性が高く腹側は弱い。だからなるべく腹側に当たるように、横から噴射するのがポイントである。ガス圧が強すぎて吹っ飛んでしまうが、これを逆に利用して逃げられては困る方向から噴射すると良い。また、壁にいるゴキブリに対しては落ちることを計算して斜め下から落下方向へとなでるように噴射する。ただしゴキジェットは人体にも有害なため、風呂場や台所では使えない。

 また、車やバイクに乗る人は誰でも知っているブレーキクリーナーというものがある。これは脱脂洗浄剤で、油を吹き飛ばす作用がある。ゴキブリは気門付近を油でコーティングしており、この油のコーティングが取れてしまうと自分の毛で窒息死してしまう。気門は他の昆虫と同じく腹部に存在する。ブレーキクリーナーでは当然腹部を狙う。5秒も当てることが出来れば確実に殺せる。だがしかし窒息するまでにタイムラグがあるので、当ててからすぐ死ぬというわけではない。ブレーキクリーナーは勝手に蒸発するので後始末が大変楽である。

 最後に変り種としてヘアスプレーを紹介しておきたい。スーパーハードHGなどに代表される超強力セットスプレーである。これはゴキブリを瞬時に固めることが出来る。初弾が当たればそのまま勝ちである。後始末がめんどくさいが・・・

C洗剤

 台所用中性洗剤が有名である。界面活性剤の力によって油を分解し、ブレーキクリーナーの例と同じくゴキブリを窒息させる。洗剤の場合腹部を確実に洗剤の海に浸からせないと殺すことは出来ない。よって原則は大量発射である。
界面活性剤の量は台所用のジョイが40%とトップクラスであり、他のは5~20%とあまり役に立たない。
バスマジックリンなどは噴射機能が使えるが、腹部を洗剤で満たさないと殺すことが出来ないので兵器としては役に立たない。洗剤は数少ない台所、風呂場で使える兵器なので、常に生活用とは別にゴキブリ用を常備しておきたい。

 最後にあまり一般的ではないが、シンナー等の有機溶剤系を挙げておく。ラッカーなどの塗料でも良い。これをぶっかければまさに瞬殺が可能な恐ろしい兵器である、が、自分自身が誘惑に負けてしまう恐れもある。また、かけた場所の塗装がはがれたり、反対に塗料で色がついてしまったりするため、なかなか使う場所は限られてしまうだろう。 

☆もしも目標をロストしたら・・・・・

初弾を当てているならばあわてることはない。ゴキブリはパニックの極致に陥っている。こんなときは落ち着いて音を聞こう。ゴキブリの足音が聞こえるはずだ。足音が聞こえたら、ロスト地点から物伝いの位置を確認する。壁、地を這うケーブル、足音の方向に従えば必ずやゴキブリは見つかるはずだ。

 初弾を外していた場合、もうこれはゴキブリホイホイでも仕掛けて祈りながら寝るしかない。

 後のことは僕は知らない。

 

 

2、トラップ編

 トラップの解説を始める前に少しゴキブリの生態について説明しておこう。まず、ゴキブリという昆虫はもともと森林にいた昆虫である。貿易が始まる前までは東南アジアのみに生息しており、貿易の開始と共に日本、そして世界各国へ広がったようだ。元が熱帯雨林の昆虫なのだから当然高温多湿の環境を好む。そしてヤツらは雑食性の昆虫である。雑食性の昆虫に思考などほぼ存在しない。(肉食であろうとなんだろうと昆虫は皆馬鹿であるが。)また、彼らは熱帯雨林においては圧倒的弱者である。常に捕食される存在である。であるからして、ゴキブリの行動原理には常に安全を確保しながら行動するという本能が備わっている。

 熱帯雨林で何の武器もないゴキブリが身の安全を確保する戦術、それは、隠れることである。つまりゴキブリは常に隠れながら移動する。これはゴキブリが思考しているのではなく、そのように本能がプログラムされているからである。ゴキブリは脚以外の身体の一部が何か物体に触れていないと生理的に駄目なのである。だから彼らが移動する際には必ず物に沿って移動する。このへんのことは次回も触れる。

 以上をまとめると、ゴキブリは高温多湿の環境を好み、壁や物沿いに移動し、思考も何もなくただそこにある食べ物を食べる生き物だということである。尚、ゴキブリは8割がたの情報を触覚に依存しており、目は明暗を確認している程度である。

 

 と、なると自ずとトラップを仕掛ける場所もわかってくるだろう。ずばり高温多湿で物沿いの位置である。ゴキブリに学習能力があるなんていうデマがあったり、危険と判断したらもうそこには寄り付かないなどというデマまであるがそんなことはない。ゴキブリは思考などしていない。ただ、触覚で確認して「食べれる、食べれない、危険」といった刹那的な判断を繰り返しているだけだ。よってトラップの位置をいちいち変えたりする必要はない。

では以下にトラップを解説していく。

A粘着シート型
B毒系
Cコップ

A粘着シート型

 ごきぶりホイホイでおなじみのシート型である。メリットとしてはゴキブリの確実な死が確認できることである。精神的な安堵感を生み出してくれるのだ。
デメリットとしては反対にゴキブリを呼び寄せてしまう可能性があること。特に集合住宅ではこの傾向がある。
設置は矢張りトラップの鉄則を守り、物沿い、壁沿いに設置すること。
いくつかのメーカーからシートタイプが出ているがごきぶりホイホイに勝てるものはない。ごきぶりホイホイはゴキブリの入り口がひときわ高くなっており、ゴキブリの触覚が粘着シートに触れにくいように設計されている。このためゴキブリは粘着シートに滑り落ちてから初めて危険を察知する。と、同時にパニックに陥り、暴れまわって手足を動かす。ゴキブリは手足を動かすと自然と前進するようになっており、足がもげながらも粘着シート上で前進しているのはこのためである。

B毒系

 ホウ酸団子やコンバットといったものがこれに該当する。これもトラップの鉄則に従って、壁際、物際に配置する。メリットとしては、ゴキブリは巣に帰ると自分の糞を仲間に食わせる習性があるため、巣にいるゴキブリ全部を殲滅できるということである。まるで細菌兵器のようである。デメリットとしては効果が確認しにくい、飲食店の場合変なところで死なれては困るといったところであろう。
各自の判断に委ねたい。

Cコップ

 私が使っていたあのトラップである。効果ははっきり言ってすさまじい。だがこれも近隣のゴキブリを呼び寄せてしまうデメリットがあるのと、ゴキブリが生きたまま捕獲されるのでゴキブリが動いているのを見たくない人にはつらいだろう。また、餌をこまめに揃えなければならないのと、その餌自体の匂いがキツいのが難点である。

番外ー生物兵器

 究極のゴキブリ対策、それは生物兵器である。動物の糞さえ気にならなければ、一番有効で一番安全なゴキブリ対策となる。

 私が勤めていた店はある時期を境に他の店とも提携を始めたのだが、その店では一切ゴキブリが出なかった。聞くところによるとヒョウモントカゲモドキという熱帯性のヤモリ(すげーカラフル)を店内に3匹ほど放しているらしい。熱帯性のヤモリなので当然暖かい店内から脱走することはない。このヤモリがゴキブリを食いまくるので、ゴキブリが出ないというわけである。が、これは年中暖かい熱帯魚屋だからできたことでもある。そうでない所で生物兵器を使用するならば、当然熱帯性の生き物では駄目だし、使い捨てを覚悟するか、脱走防止の工夫をしなければならない。そこで以下に3つの例をあげた。

1、ヤモリ使い捨て

 普通にヤモリを飼うのである。もちろん放し飼い。生物兵器は放し飼いにしなければ効果はない。だがしかし、一般家庭のゴキブリの量などたかが知れている。おそらく1週間で食い尽くし、他の場所へ行ってしまうだろう。ヤモリの場合、脱走を防止する手段はない。

2、アマガエルもしくはカジカガエル

 これは脱走防止としてカエルが水場から離れないという習性を利用するものである。水槽やプラケースに水を張り、半ば放し飼い状態にする。アマガエルの場合、大ゴキには歯が立たないかもしれないが、ショウジョウバエを食べるのでその対策にもなって大変よろしいと思われる。
だがしかし、カエルも馬鹿なので排水口に突っ込んで死んだり、道に迷って干からびたりしてあまり長生きはできないであろう。使い捨てよりは若干長持ちするという程度の認識にとどめておきたい。

3、アシダカグモ

 これはゴキブリ専食のクモである。見た目は相当グロい。このクモがいる家は相当ゴキブリがいるということである。現在販売している業者はないので自分で捕まえるしかない。アシダカグモは昆虫なので小食であり、かなりの絶食にも耐えられる。つまりほっといてもいいということである。脱走はしない。だが反対に小食が故に効果は薄い。少なくともゴキブリを殲滅するとまではいかないようだ。

以上、トラップ編。
次回いよいよゴキブリ退治の花形、出会い頭編

 

 

今日は朝からゴキと格闘して疲れた・・・・

今回はワタクシが観察して集めた様々なデータから、ゴキブリといかにして戦うかというマニュアルをお送りしたい。

ゴキブリ対策は以下の3つに分けて解説する。

1、侵入防止
2、トラップ
3、出会い頭戦

1侵入防止

A物理的侵入防止

 最近の住宅は密閉性が高く、普通に物理的侵入防止がなされているようである。だがそうでない住居においては、改善策を練らなければ隙間だらけでゴキブリの侵入をいとも簡単に許してしまう。

 一番簡単な物理的侵入防止は保健所に頼んで月1で家の周囲に薬剤を撒いてもらうことだ。これでゴキブリの外部からの侵入は防げる。だが費用が高くつくのでおそらく実践できる人は少ないであろう。

 安く仕上げるためにはゴキブリはどこからやってくるを考えれば良いのである。そこに市販の防ゴキ薬を塗っておけば良い。ゴキブリがやってくる場所は

a屋外から飛来し窓から

 これは単に窓を閉めていれば防げる問題である。尤も窓に隙間があるなら無意味であるが。

b下水から排水口を伝って

 S字排水パイプの住宅なら途中に水が溜まっているためまったく問題はない。だが、私の家のように古い家はストレートパイプであることがたまにある。ストレートパイプの場合、途中に水などの障害が一切ないため、ゴキは余裕であがってくる。
これは常に蓋をしておくしか防止策はない。薬剤を撒いても排水口という特性上、すぐに流れ落ちてしまうからだ。

c集合住宅で隣などから

 進入スペースとなる部分に薬剤を塗っておく。または隙間を埋める。盲点となるのはドアである。意外とドアから進入してくる。

d縁の下から

 意外と知られていないことだが、縁の下の通気性を良くして湿度を下げてやるとゴキブリ発生率がかなり下がる。縁の下の通気性をよくするには換気扇の設置が必要である。最新の家はデフォルトで通気性が良いので問題がないが、古い家では換気扇を外注するしかない。しかし悪徳業者に注意すること。換気扇自体は3万もしない。

 
e車庫から

 屋外に住むゴキブリが冬眠場所として車庫に住み着くことがよくある。これは何も地方に限らず都心でも起こりうることである。黒ゴキの大型固体などは夏から秋にかけてゴミ捨て場で生活していることがあり、ヤツら半屋外性のゴキたちが車の排気や余熱であたたかい車庫を冬眠場所として選択することがよくある。そして春になると屋内へと侵入してくるのだ。この車庫から屋内へのルートが断絶されている家屋では問題ないが・・・

fベランダから

 ベランダにプランターなどを置いている場合そこが冬眠場所になっていることがよくある。心配ならプランターを全部ひっくり返してみてみること。

Bキープクリーン

 常に清潔をこころがけておくこと。簡単に言ってしまえばゴキブリにとってメリットがない家にしてしまうことである。
だがこれを実行するには常に台所の水分をすべてふき取り乾燥させた状態にしなければならないのと同時にすべての生ゴミを常に屋外に捨てておく必要がある。更に食材は密閉した容器に入れ・・・・・とかなりめんどくさい。こんなことが出来るなら苦労はしない。よって簡単な処置のみにする。匂いの強い食材、ゴミを置いておかないことである。特に注意すべきはコーヒー。これは匂いが強いのでゴキブリがすぐに寄ってくる。コーヒーのゴミは即座に屋外へ投げ捨てることだ。以上。

 

 ホイホイ作戦ではキリがない。それを私が悟ったのは、ホイホイの中のゴキ絨毯を乗り越えて別のゴキが中央の餌をむさぼっているのを見た瞬間であった。「俺の屍を超えていけ!」ではないが、ゴキブリの人海戦術、いや虫海戦術の前にホイホイは無効であった。ただ、ゴキに餌を提供しているだけではないかこれでは!!!

 では他の手段はどうであろう。

ホウ酸団子→魚の水槽にゴキが落ちたら一大事=×
バルサン→水槽に悪影響=×
生物兵器→アロワナがそいつを見つけたらジャンプするので×

選択肢がなくなっていく。

 だが我々は逆転の発想を以って毒を制すことを考えた。

 ゴキブリを魚の餌にすればいいのである。幸いにして昆虫を好むアロワナの専門店ときた。もちろんゴキブリの危険性を我々は熟知していたが、コストパフォーマンス、一石二鳥っぷりとリスクを天秤にかけた結果、この作戦が採用された。

 となれば早速トラップ作りである。トラップは簡単である。大きめのコップの中に魚の餌を入れる。そしてコップの内側にマーガリンを塗っておけばいい。マーガリンやバターに触れるとゴキブリはなぜか落ちてしまうのだ。こうして、生きたゴキブリを捕らえる算段が整った。

 さてここで問題である。普通熱帯魚屋にはデカいコップなどない。では、そのコップはどこから調達するか。この難問を我が店長はあっさりと解決してくれた。

 その日から店長は隣の中華屋に出前を頼みはじめた。この中華屋の店長もこのアロワナ屋の常連であり、顔なじみである。中華屋の店長の名前はセイジと言う。通称セイちゃんである。

「セイちゃん、A定食二つと中生2つね」この調子で店長は毎日出前を頼んだ。中学生の私にまでビールを飲ませ、もちろんジョッキは返さない。さすがヤクザである。セイちゃんに何か言われても、「あ~後で返すよ。」の一点張りである。

 言うまでもないことだが、ジョッキはセイちゃんが返却の催促をしてきた時には既にゴキトラップに化けており、とても見せられる状態ではなかった。何はともあれ、ジョッキを合計10本くらいパクってトラップにし、それをあちこちに配置した。

 結果は良好である。1つのジョッキにつき毎日3~5匹は入っている。興味深いのは設置する場所によって取れる種類が違うということである。天井近い場所ではチャバネが多く、湿度の高い水槽の濾過槽ではクロゴキの幼虫が多く、温度が少し低い水槽のない場所ではクロゴキの成体が多かった。ワモンは特に法則もないが、高い場所ではあまりとれなかった。

 これらをアロワナに与えるために、私が長いピンセットを使ってこいつらをつまみ、水槽に投げ込むのだが、どうもピンセットが滑る。最初のうちはそのまま与えていたが、だんだんと飽きてきたのと、滑り落ちて逃げてしまうことが多々あったため、ピンセットでゴキブリを串刺しにしてから放り込むという技を開発した。

 更に、アロワナがゴキブリを食べた後、羽だけ吐き出すことがよくあったので、羽のある成虫は羽をむしってから与えることにした。たまに羽と一緒に内臓が引きずり出されたりしておつゆが飛び散ったり。私は最初こそ嫌悪感で一杯であったが、そのうちこのゴキブリの虐殺を楽しむようになっていた。戦争とはかくも恐ろしいものである。人間を狂気に駆り立ててしまうのだ。

 次第に私はゴキブリのどこをどう刺せばどのような神経が切断されて、どのような動きになるのかまで覚えてしまった。例えば半身不随にして永遠に回転し続けるゴキブリを作るなどといったことは造作もなかった。実験的に触覚を切って放ってみたり、頭を切り取ってみたり、腹を押しつぶして中身を搾り取るなどといったことまでやった。ナチスもびっくりである。

 結果として我々とゴキブリの戦争は我々の一方的な虐殺が繰り返されるという結末に至った。さすがに毎日ゴキブリを取り続けていると、数も減ってくる。最後のほうは1日合計3匹取れるかどうかといった具合であった。我々は圧倒的勝利を収めたのである。これほどの劇的な勝利は歴史上稀であったろう。とにかく、我々は勝ったのだ。人間ばんざい!

 

 

 

 

 ある日私がトラップの掃除をしていると、中華屋のセイちゃんが店にやってきた。
「社長さ~。それ、うちのだよね・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

 

 

今日も出たよ・・・デカいのが・・・

さて、と。ゴキブリ戦争の話だったな。

あの忌わしい記憶を食事中に蘇らすのはいささか抵抗があるが乗りかかった船、仕方あるまい。
殺るか殺られるか。壮絶なあの戦争の記憶を語らねばなるまい・・・・・

 10年前、私は熱帯魚屋でアルバイトをしていた。中学3年生の時である。この時はまだアロワナ専門店ではなく、普通の熱帯魚屋であった。

 熱帯魚屋というのは常に25度以上の室温をキープしている。さらに、魚のエサが常備され、食い物には困らない。湿度も高く、まさに熱帯雨林のような環境である。ゴキブリにとってはユートピアなわけである。

 冬になると近所のゴキブリたちはこの店に集結した。冬眠なんてどこ吹く風。せっせと繁殖に明け暮れるのだ。
ではこの時点でのゴキ害を少し挙げてみよう。

・モップ用バケツの中で常に2~3匹のクロゴキ大型固体が死んでいる。

・同じように便所でも常に死んでいる。どうもクロゴキ大型固体は自分の体重のために滑り落ちて溺死することが多い。

・袋詰めにされた魚のエサの袋を食い破り中を荒らす。

・前日忘れていったタバコの箱を開けるとゴキブリが物凄い勢いで飛び出してくる。よく見ると中身が食い荒らされている。

・名刺ファイルの中がゴキの巣になっており、開いた瞬間20匹くらいが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。うち数匹は腕に上ってきた。

・モーター内にゴキブリが侵入し、こっぱみじんになりモーター破損。

・水槽内に落ちて魚につつかれ死亡。バラバラ死体を客に気づかれないように素手で拾う。

・冷蔵庫のゴムが食い破りで突破され、内部が荒らされると同時に寒さで大量の死体が・・・・

ちなみにこれらの後始末をしてたのは全部私である。だがこの時点ではありふれたことだったので、私も店長も気には止めていなかった。

 しかし、大型店舗の出現によりうちの店がアロワナ専門店となった時、このゴキ害が無視できぬものとなってきた。

 アロワナという魚は昆虫を好んで食べる。そのためゴキブリが水槽のガラス蓋の上を歩いたりしていると、それめがけてジャンプを繰り返す。結果として魚体は傷つき、髭が折れたりウロコが取れたり、アゴが腫れてしまったりして商品価値を落としてしまう。最悪のケースではアゴが折れて死んだりしてしまう。

 ちなみにこの魚は一体20万~150万くらいするので店側の損失はかなり大きくなる。

 さらにエサ水槽の問題も深刻だ。エサの金魚の水槽にしょっちゅうクロゴキの成体が落ちて死ぬのである。もちろん金魚につつかれてバラバラ死体となる。そして、それを始末するのは私である。客の目を盗んでこっそりと、素手でかき集めるしかないのだ。

 また、エサ用コオロギの水槽にもしょっちゅう侵入する。コオロギは注文を受けると素手で捕まえていくのだが、この時、間違えてゴキブリをつかんでしまうと大変なことになる。店長が間違えてゴキブリをつかんでしまった時、ゴキブリは反撃を見せ、店長の手に噛み付いた。翌日、店長から連絡が入り、手がカブれてしまってとても店にはいけない、しばらく一人でやってくれと言われた。店長の手のカブれが直るのには3日ほどかかった。ゴキブリは下水などから上がってくる。何かとてつもない雑菌が入ってしまったのだろう。

 以上の事態を踏まえて、我々スタッフはゴキブリとの全面戦争に突入することを決意した。ゴキブリを殲滅するのが当面の目標となった。

 私は手始めにゴキブリホイホイを数箇所に設置してみた。
店の休日を挟んで2日後、ホイホイを開く。すると、ホイホイの内部は実にカラフルな模様となっていた。

 すなわち、ホイホイの地面が見えないのである。ゴキブリの絨毯が出来上がっていたのだ。チャバネ、ワモン、クロ、様々な種類のゴキたちがトラップにひっかかっていた。中には自分の前にひっかかっているゴキの腹部を食べている個体までいた。嗚呼、なんと悪食なのだこいつらは・・・。

 更にショックだったのは、設置した場所を忘れていたホイホイを見つけて開封した時だ。
ゴキ絨毯が出来上がっているのはもちろん、その中に更におぞましい光景が広がっていた。

 ゴキブリの卵というのは、メスの腹にひっついている。産み落とすまで、メスが腹に抱きかかえて歩き回るのだ。そんなメスが、トラップにかかっていたのだ。哀れなその卵は産み落とされることなく、孵化まで持ちこたえることが出来なかった。私が見たのは、ホイホイの中でメスの腹部にくっついたまま孵化した卵の抜け殻と、そこから放射状に広がってくっついているおびただしい数のゴキブリの幼令虫であった。

 さてホイホイ作戦もキリがないとわかってきた我々は新しい作戦を練ることにした。

 

 

 今週に入って5匹目である。

しかも今回はなんと寝室に出やがった。
ベッドの下から出てきたのでびっくりした。

ま、確実な死をプレゼントしてやったが・・・・

 ゴキブリをよく素手で触ったりしている人がいるが信じられない。当の本人たちは「慣れ」だと言うが、ゴキブリというのは知れば知るほど恐怖を感じる生物である。
誰よりもゴキブリを怖がる私はもちろんゴキブリをとてもよく知っている。とてもよく知っているからこそ、怖くてしょうがないのだ。

皆さんの中でゴキブリを殺したことがない人などいないであろう。だが、おそらく多くの人は2桁程度なのではなかろうか。
3桁殺せば立派なゴキブリ博士である。
おそらくそのくらい殺せば彼らの生態、動き予測、確実なしとめ方くらいは熟知しているはずである。
このレベルに到達すればゴキマスターと呼ばれてもいいだろう。
では私は、というと、少なくとも1万匹は殺している。
私はゴキブリ殺しのプロフェッショナルだったのだ。

もちろん望んでそうなったわけではない。運命が、私の人生を翻弄したのだ。
そう、語らねばなるまい。あの10年前の戦争のことを・・・・

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